今日、心臓カテーテル検査を受けた。
本来は手首の橈骨動脈から入れる予定だったが、うまくいかず、肘の上腕動脈からの治療になった。
問題はここからだ。
止血のため、明日の朝まで肘を曲げられない。
写真の通り、腕はぐるぐる巻き。
透明な圧迫器具に、緑の注入口。
まるで一本の丸太である。
寝返りは?
布団はどうかける?
そもそも、この腕で眠れるのか?
30年以上、医師として「今夜は安静にしてくださいね」と患者さんに言ってきた。
その一言の向こうに、こんなに長い夜があったとは。
患者になって初めてわかる。
「安静に」は指示であって、眠り方までは教えてくれない。
明日の朝、包帯が外れたら、この夜に学んだことをまた言葉にしたいと思う。
同じ経験をされた方、どうやって寝ましたか?
#心臓カテーテル #患者になって気づいたこと #言薬
「先生、今日は話を聞いてもらえて、それだけで楽になりました」
緩和ケアの現場で、何度もこんな言葉をいただいてきました。
痛み止めは体の痛みに効きます。
けれど「この先どうなるのか」「迷惑をかけて申し訳ない」という心の痛みには、薬だけでは届かないことがある。
そこに届くのは、ときに、たった一言の言葉です。
私はそれを「言薬(ことぐすり)」と呼んでいます。
このたび、noteをはじめました。
・臨床で出会った「効いた言葉」「届かなかった言葉」
・大切な人を支えるときの言い換えのヒント
・医療とコーチングが交わるところで考えていること
そんなことを綴っていきます。
医療や介護に関わる方、家族の看取りの只中にいる方、「気持ちをうまく言葉にできない」と感じている方に読んでいただけたら嬉しいです。
記事はリプライ欄に貼りました。
#言薬 #緩和ケア #note
たとえば、こうなります。
✕「お忙しいところ、すみません……」
謝罪が最初の一文を占領します。医師はまだ何の件かを知らず、警戒して聞き始めます。
○「□□さんの件です。結論から言うと、〇〇の指示をお願いしたいです」
✕「□□さんが、なんか変なんです」
この感覚は当たります。問題は、そのままでは医師が判断に使えないこと。
○「数字はまだ崩れていませんが、私は心配です。〇〇と〇〇が、いつもと違います」
✕「様子を見ていいですか?」
医師が「いいよ」と言えば、そこで終わります。
○「〇時に再検して、〇〇ならもう一度お電話します。それでいいですか」
原理は一つです。遠慮を、根拠に置き換える。結論から言う。いつもと比べて言う。「私は心配です」という見立てを消さない。
言い換えは全部、相手との関係で3段階に分けました。軽(当直医・初めての医師)、標準(いつもの主治医)、深(関係ができている医師)。
そして、72個のうち8個には言い換えを置いていません。その一つが、「(怒られたくないので)朝まで電話をかけずに、様子を見る」です。(3/4)
8つの場面に9つずつ、72個あります。電話の最初の一言/状態の変化・急変の報告/指示の確認・疑問/痛みや苦しさの緩和の相談/患者さん・ご家族の思いを伝えるとき/意見が違うとき/夜間・当直・強い口調の医師に/そして、自分に向ける言葉。
▼ まず9項目を無料で読めます(カテゴリ1・電話の最初の一言)
ishi-iikae72.netlify.app
▼ 全72項目(本編およそ33,000字・500円)
note.com/gan0127/n/n38cd9641…
有料版には、72個すべてを収めた印刷用の早見表PDF(A4横2ページ)が付きます。ナースステーションの電話の横でも、夜勤のポケットでも。施設内での印刷・掲示・配布は自由です。
最後に、医師として一つだけ。
夜中に起こされた不機嫌は、朝には忘れます。けれど、知らされなかった急変は、一生忘れません。迷ったら、かけてください。
病棟の看護師の方へ。そして、看護師から電話を受ける医師の方へ。よければ、隣の人に送ってください。(4/4)
ふり返ると、あの電話には、報告に必要なものがすべて入っていました。
最初に、誰の、何の報告かを言っていた。
「夕方までは」「入院されたときと」と、いつもとの違いで話していた。
数字が正常でも、「変だ」という自分の見立てを消さなかった。
そして、「診てほしい」と頼んでいた。
謝罪の前置きは、一つもありませんでした。
逆に、届かない報告もたくさん受けてきました。届かない理由は、たいてい言葉の下手さではありません。遠慮です。
最初の一文を謝罪が取り、肝心の「何をしてほしいか」が最後に回る。根拠に自信がないと「一応」「ちょっと」「なんか」がつき、看護師としての見立てが消えて、「どうしましょうか」だけが残る。
医師は、結論を待ちながら聞いています。そして、その届かなかった言葉の向こうに、いつも患者さんがいます。(2/4)
医師が書いた、看護師向けの言い換え辞典を公開しました。テーマは、看護師が医師に報告・相談するときの言葉です。なぜ医師が書くのか。電話を受ける側だからです。
十八時。白衣を脱ぎかけていたときに、電話が鳴りました。病棟のベテラン看護師からでした。
「先生、今日入院された方のことで報告です。夕方までは変わりなかったのですが——なんか、変なんです」
バイタルは?と聞き返すと、変わりはない、意識もしっかりしている。でも、入院されたときと違う。「一度、診ていただけませんか」。
医師になりたての頃の私は、こう答えていました。「バイタルが変わらないなら、様子を見てください」。
けれど経験を重ねるうちに、気づきました。看護師の「なんか変」は、当たるのです。
その日、私は脱ぎかけた白衣にもう一度袖を通して、病棟へ戻りました。(1/4)
二度目の入院の手続きで、
二十枚以上の書類を渡されました。
同意書、確認書、案内、注意事項。
こちら側から渡してきた紙の束を、
今度は受け取る側になったわけです。
その中に一枚、性格の違う紙が混ざっていました。
「治療について考えていくための質問紙」
アドバンス・ケア・プランニング、人生会議の文書です。
私の専門領域です。研修で教える側に立つこともあります。
その私が、患者として、その紙を渡されました。
私は、正直に書きました。
自分が何を大切にしたいか。
もし決められなくなったとき、誰に判断してほしいか。
軽い気持ちで書いたわけではありません。
一度目に死にかけている人間の、二度目の入院です。
書きながら、いろいろなことを考えました。
そして、提出しました。
翌日も、その次の日も、
誰からも、何も言われませんでした。
治療は予定どおり行われ、経過は良好で、私は退院しました。
病院を責める話ではありません。
書類は間違いなく処理され、記録されたのでしょう。
手続きとしては、何一つ問題はありません。
問題は、そこではありませんでした。
私が書いたのは、書類ではなく、私の考えだったからです。
紙を配ることは、誰にでもできます。
回収することも、誰にでもできます。
けれど、そこに書かれたものを受け止めることは、
誰にでもできることではありません。
そして私は、
自分がこれまで配ってきた紙のことを考えています。
あの紙たちは、誰かに読まれたでしょうか。
連載「カーテンの向こうから」第10話。
💬「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合ったときだ。」
— 映画『イントゥ・ザ・ワイルド』クリス(エミール・ハーシュ)が最期に書き残した言葉
すべてを捨ててアラスカの荒野へ向かった青年が、最後にたどり着いた答えです。
外来の待合で、星野道夫さんの本を手にした40代の男性がいました。がんは骨に転移していました。「星野道夫さん、お好きなんですね」と声をかけると、彼の顔がぱっと明るくなりました。私も大ファンだったのです。全国の写真展を巡ることが生きがいだった彼は、入院後、震える手で一冊の本を差し出し「先生に差し上げます」。目に涙を浮かべて「星野さんは素晴らしい」と語りました。
好きなものを、好きな人と分かち合う。その喜びは、病でも奪えません。月曜の朝、あなたの「好き」を誰かに話してみませんか。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #星野道夫
💬「持てる才能を使いなさい。いちばん上手に歌う鳥しか歌わなかったら、森はとても静かになってしまうでしょう。」
— ヘンリー・ヴァン・ダイク(詩人)
上手かどうかより、自分の声で歌うこと。三線がそれを教えてくれました。
施設の秋祭りで三線を弾くことになったときのこと。三線の世界には「唄7割、三線3割」という言葉があり、主役は唄です。ところがしばらく歌っていなかったせいで、高い音が出にくくなっていました。そんなとき三線は、全体の音を下げて、自分の声に合わせて調弦すればいいのです。
無理に誰かの音に合わせなくていい。その人の声だからこそ届く真心があります。
日曜の朝は、自分にちょうどいい音で一日を始めてみませんか。それもまた、言薬です。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #日曜の朝 #三線
💬「大切なのは、どれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心をこめたかです。」
— マザー・テレサ(修道女)
心は目に見えません。けれど、ほんの小さな所作には、はっきりと表れます。
医療の現場で、私はよく物の受け渡しを見ています。目を合わせずに渡す人、目を合わせて渡す人、そして目を合わせて両手で渡す人。三つめの人の手からは、相手への敬意が静かに伝わってきます。
以前、ある看護師が学会で著名な教授に名刺を差し出したところ、教授は目もくれずに片手で受け取り、机の上に放ったそうです。泣きながらその話をしてくれた彼女の顔を、今も覚えています。
地位や肩書きに関係なく、人はみな平等です。両手で受け取る。それだけで「あなたを大切に思っています」という言薬になります。土曜の朝、今日手渡すものに、ひとつ心をこめてみませんか。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #土曜の朝 #マザーテレサ
💬「これでいいのだ。」
— アニメ『天才バカボン』バカボンのパパ(原作 赤塚不二夫)
何が起きても丸ごと受け止めるこの口ぐせには、起きたことの中に「よかった」を見つける力があります。
私が心筋梗塞で倒れたのは、単身赴任先の愛媛ではなく、静岡へ帰省していたときでした。運ばれた先は、偶然にも以前勤めていた病院。しかもそこは、循環器の救急患者を受け入れる日が月にわずか2回という病院だったのです。一人きりの赴任先で倒れていたら、今ここにいなかったかもしれません。
倒れたことは不運でも、その中にはいくつもの幸運が隠れていました。
今週うまくいかなかったことも、まずは「これでいいのだ」と声に出してみませんか。その一言が、肩の荷を下ろす言薬になります。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #これでいいのだ #金曜日
💬「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
— 夏目漱石『草枕』
住みにくい世の中で、私たちは知らず知らずのうちに「役」を演じています。
自分が患者になって気づいたのは、病院では誰もがピエロだということでした。患者は見捨てられるのが怖くて、つらくても「大丈夫です」と笑う。医師は治療がうまくいかない悔しさを隠し、看護師は理不尽な言葉に傷ついた涙をこらえて次の病室へ向かう。誰もが本音をしまい込み、笑顔の仮面で一日を乗り切っているのです。
その仮面をゆるめるのは、「よくやってるね」「あなたがいて助かった」という短い言葉だと思います。
週の疲れがにじむ木曜日。隣で頑張る誰かに、ねぎらいの一言を処方してみませんか。それはあなた自身の心もほどく言薬になります。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #夏目漱石 #ねぎらいの言葉
💬「私たちが二つの耳と一つの口を持っているのは、より多く聞き、より少なく話すためである。」
— ゼノン(古代ギリシャの哲学者・ストア派の祖)
二千年以上前の言葉ですが、「また会いたい」と思う人の顔を浮かべると、なるほどと頷けます。
先日、何年かぶりに二人の友人と再会しました。一人は外科医から緩和ケアの道に進んだ医師。変わらない柔らかな物腰に、こちらの心まで静かに落ち着いていきました。もう一人は大学時代の友人で、今は金融の世界にいます。分野はまったく違うのに、時間を忘れて語り合いました。
振り返ると、二人に共通していたのは「聴いてくれる人」だということ。自分の話ばかりせず、相手の言葉をしっかり受け止めてくれるのです。
聴くことは、いちばん静かな言薬。今日は口をひとつ閉じて、耳をふたつ開いてみませんか。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #聴く力
集中治療室にいた三十時間あまり。
私がいちばん強く願っていたことを、はっきり覚えています。
眠らせて欲しい。
それだけでした。
医師たちは、とても丁寧に診てくれました。
胸の痛みはどうか。息苦しさはないか。
手首の出血は。食事はとれているか。
毎日きちんと確認してくれました。
ただ、眠れているか、という質問だけは、
十二日間、一度も出ませんでした。
これは非難ではありません。
急性期にまず診るべきは循環動態です。
私が主治医でも、同じ順番で聞いたと思います。
問題は、そこではありません。
私が、自分から言わなかったことです。
医師である私が、「眠れません」の五文字を言えなかった。
眠りたいと言うのは、逃げたいということではないか。
睡眠薬のリスクは、自分がいちばん知っている。
そして何より、スタッフの忙しさが全部聞こえていました。
——どれも、患者さんが抱えているものと同じでした。
この経験から、私は一つの言い方を持つようになりました。
患者は、二番目に重要なことしか言えない。
一番目は、言えないのです。
だから代わりに、二番目を言います。
「まあ、大丈夫です」
「特に変わりないです」
医療者は、その二番目に、丁寧に、正確に対応します。
そして一番目には誰も触れないまま、その日が終わります。
私は二十三年間、患者さんの二番目に、
真面目に答え続けてきたのかもしれません。
連載「カーテンの向こうから」第9話。
💬「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。」
— イチロー(野球)
ヒットを一本ずつ重ねるように、言葉もひと言ずつしか届けられません。
『納得する生き方』を出版して1か月後、「この本を一番届けたい」と願っていた場所に置いていただけることになりました。
がんに影響を受ける人とご家族を支えるマギーズ東京です。創設者の方が本を手に取ってくださる姿を見たとき、何度も想像してきた光景が目の前にあり、涙があふれました。
患者さんと交わしてきたひと言、書きためてきた一文。その積み重ねが、思いもよらない場所へ連れていってくれたのだと思います。
今日のあなたのひと言も、いつか誰かの閉ざされた心をほどく言薬になるかもしれません。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #イチロー
💬「君のおかげで、もっといい人間になりたいと思えたんだ。」
— 映画『恋愛小説家』メルヴィン(ジャック・ニコルソン)
偏屈な男を変えたのは、人との関わりでした。現実にも、そんな瞬間があります。
私がコーチングを続けているソーシャルワーカーの方が、ある男性患者さんへの対応に悩んでいました。「何を言っても受け入れてもらえない」と。ところが2週間後、その方は別人のように明るい表情でした。多職種のスタッフが関わり続けるうちに、患者さんがこう言ったそうです。「こんなにしてもらったら、優しくならないわけにはいかないですね」。
変わったのは患者さんだけではありません。支える側もまた、その人に育てられていたのです。
人は変われる。そのきっかけは、あきらめずにかけ続ける言葉です。今週は、届かないと思う相手にこそ、もうひと声を。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #月曜日の朝 #恋愛小説家
💬「話すことは、放すこと。」
— 日本の言い習わし
胸の内を言葉にすると、抱えていたものを少しだけ手から放せる。先日、それを確かめる出来事がありました。
企業向けの講演で緩和ケアについてお話ししたあと、ステージ4のがんを抱える方が「死ぬのがこわい」と率直に打ち明けてくださいました。大勢の前で口にするには、どれほどの勇気が要ったことでしょう。私はまず、その勇気に「ありがとうございます」と伝えました。
そしてお勧めしたのは、信頼できる人に話すこと。医師でも家族でも構いません。もうひとつは本を読むこと。読書は著者との対話であり、自分自身との対話にもなるからです。
こわさは、ひとりで抱えるほど重くなります。日曜の朝、心にしまっている言葉を、誰かにそっと手渡してみませんか。
#言薬 #言葉の力 #朝の言葉 #緩和ケア






